私自身が性被害からPTSD(心的外傷後ストレス障害)とうつ病を10年患っていて、その間三年程睡眠障害が重くなり、四日間覚醒し続け数時間だけ意識を失う、という日々をほぼ寝たきりで過ごしていました。病院にはちゃんと通っていて薬も飲んでいました。疲労と、消耗で悪夢と現実の記憶の区別がつかなくなり、自分の正気が薄れていくのがわかりました。自分の病状と、丁度この頃に身内の不幸が重なり、「周りから私は嘘つきだと思われているのではないか?」という不安がいつも頭を離れませんでした。人は独りで時間を持て余していると余計な事を考えてしまうものです。なので暇ではなくしてしまいたいと思ったのと、このままではまずい、何か社会との繋がりを持たなければという気持ちから東京藝術大学の履修証明プログラムに申し込みました。授業が気分転換になったのか、少し元気になりリハビリがてら漫画を描いてコミティアに出て頒布してみようという気持ちにまでなりました。
どんな話にしようか…と考えた時に、折角だから自分の経験をネタに使いたいと思ったのと、世間でも最近やっとPTSDへの関心が高まってきていたので、PTSDをテーマに漫画を描こうと決めました。どんなキャラクターを主人公にするかと考えた時、女性は嫌でした。まだ自分の心の傷が癒えてない為、病気の悪化の可能性があったからです。そこで、男性同士のケアの問題や、昨今の世界情勢(ウクライナとロシアの侵略戦争)、
ジュディス・L・ハーマン著の「心的外傷と回復」を読んでPTSDは軍人だけのものではなく性被害を受けた女性もなると知り…ならば退役軍人の男性をメインキャラにしようと決めました。
最初は全く別の話を考えていました。しかし、今の社会情勢ではまだ描くべきではないと、締め切り二週間前にプロットをまるまる捨てました。そして二週間で新規プロットの作成から完成までもっていったのがこのSLEEPING BEAUTYです。三年間一枚も絵を描いていなかったので、原稿の描き方も忘れていてハードなリハビリでした。
漫画はとにかくストーリーが大事だと思っています。そして私はそのストーリーを考えるのが苦手です。なので今回は少しでも苦手を克服するつもりで、時間もないので思い切って背景やキャラといった画は状況がわかればいい程度にして、ストーリーと台詞の優先度を高くしました。
描いている時は大変でしたが、不思議ととても自然に眠りにつく事が出来ました。睡眠には負荷が必要だと言います。漫画を描くことが「私に合った」ちょうど良い負荷だったのだと思います。薬も、運動も、私には効きませんでしたが、アートがどんな場合でも必ず救ってくれるとは限りません。みんなは少しでも不調を感じたら病院には早めに行って下さいね。